はじめに
『ピンポン』に出会ったのは高校生の頃だった。当時は映画にほとんど興味がなく、漫画やアニメ、ゲーム、遊戯王に夢中になっていた時期だったと思う。今では記憶もうろ覚えだけれど、テレビで初めて観たときの衝撃だけは、今でも忘れられない。
卓球というスポーツを扱った青春映画、というだけの紹介では、この作品の本質は伝わらない。むしろ「青春もの」「スポーツもの」が苦手な人にこそ、観てほしい一本だ。
作品情報
- タイトル:ピンポン(2002年)
- 監督:曽利文彦
- 原作:松本大洋
- 出演:窪塚洋介、ARATA(井浦新)、竹中直人 ほか
- 視聴可能な配信サービス:
- U-NEXT(見放題配信・初回31日間無料トライアルあり)
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あらすじ
卓球の天才少年・ペコと、その親友であり卓球の理論派・スマイルを中心に描かれる青春群像劇。二人の関係、そしてライバルたちとの闘いを通して、それぞれが自分自身と向き合っていく物語。
本編――ドラゴンという男
自分にとって一番衝撃的だったのは、ドラゴンというキャラクターだった。あれほどまでに努力を惜しまない、とても高校生とは思えない凄まじさを放つ彼が、なぜペコを前にあそこまで吼えたのか。
彼もまた、助けてもらいたかったのだと思う。誰かに認めてもらいたいという欲求をとうに超えて、「ありもしない他者からの救済」に身を焦がし絶叫する彼は、無自覚のうちにペコへ絶大な期待を寄せてしまっていた。
なぜそんな期待を抱いてしまったのか。それは間違いなく、スマイルのせいだ。ドラゴンはスマイルに対して「似ている」という親近感を寄せていた。才能に恵まれながらも誰からも理解されない孤独を背負う境遇に、自分と重なるものを感じ取っていたのだろう。そのスマイルがペコに依存していく姿を見て、ドラゴンは否応なくペコを意識するようになる。それは実力に根差したものではない。表面的にはそう見せているが、実際は違う。「自分と似たスマイルが信頼を寄せる男ならば」という潜在意識が、そうさせているのだ。
チームのため、自分のため、育ての親のため、日本のため――そうしたしがらみに囚われたドラゴンは、何もかもを投げ捨てることができなかった。彼もまだ子供なのだ。ただの高校生であることを、メディアも周囲も認めてくれない。
でも、ペコだけは認めてくれた。膝が今にも死に絶えそうなのに、それでも向き合ってくれる。選手生命さえ投げ捨てて、全身全霊で一騎打ちに挑んでくれる。そんな男が覚醒し、自分をただ圧倒するのではなく、無邪気な少年のように闘いを楽しんでくれる。その姿につられるように、ドラゴンも自然と笑ってしまう。
勝利をつかむためにラケットを握っていた彼が、いつしか喜びをつかむためにラケットを握り、走る。
これは、大人になることを強制された子供たちが、失ってしまった少年の心を取り戻していく物語だ。それはペコもアクマも例外ではない。ただ受動的に救われるのではなく、ある者は教え導く者として人生の道を変え、ある者は自らの素質を輝かせる道に挑み、ある者は世界を照らすHEROになり、ある者はHEROへの憧れとともにその後を追い、ある者は自らの適性を見出して、静かな人生の中に他者との関わりを選び取っていく。
これほどの物語に、自分は何度も涙を流した。中でもドラゴンとペコの闘いには、そのたびに心を奪われた。
「また、連れて行ってくれるか?」――二人だけの世界には、平和の鳩が飛翔する。誰にもとらわれず、誰にも見えず、誰からも干渉されない理想郷にたどり着いた二人は、光に包まれて、ようやく分かり合えたのだと思う。
現代を生きる私たちは、きっとドラゴンの在り方に自分を重ねてしまう。彼は自ら傀儡になり果ててしまう、哀しいほどのセルフネグレクトを発揮してしまう人間だ。社会にすり潰され、周囲の期待に応え続け、心身を酷使し、努力の方向性を見誤り、目的と手段をはき違え、いつしか自分の人生の価値を落とし続けていく。
まとめ
そんな自分を、自分たちを救う手立ては、もしかしたらすぐ近くにあるのかもしれない。あなたの心を、少年少女の頃に還してくれる誰かが。
『ピンポン』は、そういう映画だ。
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